「みみよりな話」-しろヒゲ先生の医療談話(by Dr. Hiroshige)

 きょうは、高齢者の「耳のきこえかた」についてお話しをします。

 耳が遠くなった状態を、医学的には「難聴」といいます。電車内で、若い人のヘッドフォンから、シャカシャカ♪という音漏れを聞くことがありますが、大音量で音楽を聴いている人は、「騒音性難聴」になりやすいことが知られています。

 騒音性難聴では、初期症状として4000ヘルツのとても高い音域(キーンという高い音)が聞こえにくくなりますが、日常生活でこのような高音域の難聴を自覚することはほとんどないため、多くの若者が「大音量で音楽を聴いても、難聴なんてならない」と誤解したまま、大切な耳の機能が失われてゆくのに気づかずにいます。

 このような騒音性難聴にならないようにするには、大音量や騒音を避けて暮らすしかありません。電車内でどうしても音楽を楽しみたければ、ノイズリダクション機能(周囲の騒音を消してくれる機能)のある高級なヘッドフォンで、小さめの音量で音楽を聴くのが現実的な解決策です。

 騒音性難聴は、初期には高音域のみが障害されますが、難聴が進行するにつれ、日常会話音域まで聞こえなくなってきます。つまり、日常的に聞こえにくいと感じるようになった時には、完全に手遅れの騒音性難聴になってしまっているのです。そして、残念なことに今の医学で、なってしまった騒音性難聴を治療する方法はありません。

 一方、高齢者の難聴を、老年性難聴といいますが、これは、先にお話しした騒音性難聴とは、ちょっと原因が違います。高齢者の難聴は、年齢とともに、音を伝える耳の機能が低下してくることと、耳でキャッチした音の信号を脳で認識する機能が低下してくるという、両方の原因で起こります。

 高齢者との会話で、次のような経験をしたことはありませんか?。次にヘルパーのAさんと、介護保険利用者のBさんの会話を例にあげます。

ヘルパーのAさん 「こんにちは、Bさん。今日はお元気ですか?」
Bさん 「ん? よく聞こえないね。」
ヘルパーのAさん 「もう一度いいますね。今日はお元気ですか?」
Bさん 「ん? なんだって?」
ヘルパーのAさん (もう少しだけ大きな声で)「今日はお元気ですか?」
Bさん 「そんなに大きな声で言わなくても聞こえてますよ。」

 Bさんは、びっくりしたような表情で「そんなに大きな声で・・・」と答えていますが、Aさんは、少しだけ声を大きくしただけなのです。このように、小さい音は全然聞こえず、中くらいの音もほとんど聞こえず、少し大きい音になると、とたんに大音量のように聞こえてしまうのが、難聴のある高齢者によくみられる現象で、これを医学用語では、聴覚補充現象(または、ファウラー現象)といいます。

 昔のお笑いテレビ番組で、志村ケンさんが、おばあちゃんに扮して「あんだって? あんだって? そんなに大きな声で言わなくても聞こえてるよ!(会場のお客さん爆笑)」というコントがありましたが、これがまさに、今ご説明した聴覚補充現象なのです。

 もう一つ、高齢者の聴力には大きな特徴があります。昔からよく「年寄りの悪口は聞こえている」といわれています。「ワシの耳は地獄耳じゃ。はっはっは。」というセリフは、高齢な水戸黄門様が時代劇でも言っています。これは、高齢者の聴力が、高音域より低音域のほうが、よく聞き取れるという特性があるためです。

 他人の悪口を、わざわざ高い声で言う人はいません。普通、悪口を言う場合、声を低くして言います。そのため、高齢者には、悪口に限らず、低音で話している会話は、よく聞き取れるのです。

 あと一つ、「読唇術(どくしんじゅつ)」をご存知ですか?。読唇術というのは、くちびるの動きを見て、何を話しているのか言葉を読み取る技術です。読唇術は、日常、みなさんが会話していても、無意識に行っていて、口の動きで、なんとなく何を言っているのかわかりますよね。

 耳が聞こえにくくなった高齢者は、話し相手の口の動きをみて、何を言っているのか理解しようと一生懸命に努力してくれていますので、感染症予防等でマスク着用が必要な場合以外は、できるだけ、こちらのくちびるの動きが見えるようにすることが重要です。

 このように、老年性難聴には、特徴がありますので、介護にたずさわるかたは、次のことを覚えておくと良いでしょう。

  • 「ちょうど良い音量」には個人差がある。
  • 会話は、おなかに力をいれて、低めの声ではっきり発音。
  • くちびるの動きを見てもらえるようにしながら、ゆっくり話す。

 以上、3つのことを覚えておいていただき、楽しい会話に、役立てていただければ幸いです。

しろヒゲ先生のポイント・アドバイス

  • 難聴が、耳や脳のご病気の前兆である場合があります。急激な聴力低下をみとめた場合には、一度、医師に診察してもらいましょう。

 

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